ウサギのツノ
むかしむかし、ゾウはビールやごちそうを用意すると、動物たちを呼んで宴會(えんかい)を開きました。
集まった動物たちに、ゾウが言いました。
「このビールは、ツノのあるものだけに飲ませてやる。ツノのないものはだめだ」
それを聞いたウサギは、自分にツノがないのがざんねんでなりません。
「ビールは、おいしいんだろうなあ。ツノがあれば、ビールが飲めるのに。???そうだ、ツノを手に入れればいいんだ」
そこでウサギはしげみにかくれて、若いシカが來るのを待ちました。
そしてシカがしげみのそばを通りすぎようとしたとき、
「今だ!」
ウサギはシカの背中に飛び乗ると素早くシカのツノを切り取って、
自分の頭にはりつけたのです。
「よしよし、これでビールが飲めるぞ」
ツノを手に入れたウサギは、大いばりでゾウの宴會に出かけていきました。
「ゾウさん。ぼくにもビールをください」
「ウサギはだめだ。言っただろう、ツノのないものは???。おや?」
ゾウはウサギを見ると、びっくりして言いました。
「何と、ウサギにもツノがあったのか。しかもどの動物よりも、立派ではないか。
たいしたものだ。さあさあ、えんりょなく飲め」
生まれて初めてビールを飲んだウサギは、ビールをだれよりもたくさん飲みました。
「ぷはーーっ! 良い気持ちだ。ビールとは、なんとおいしい飲み物だろう」
ウサギは酔っぱらって、足元がフラフラです。
するとそこへ、年寄りのシカがやって來ました。
ウサギは、シカに言いました。
「おやおや、ずいぶんおそくおいでだね? おじいさんには、ツノがないのかい?」
「わしは、お前がどんな顔をしてビールを飲んでいるか、見物に來たのさ」
年寄りのシカはウサギに近づくと、ヒソヒソ聲で言いました。
「わしは、お前がツノを切り取ったシカのおじだ。あんまりフラフラしていると、はりつけたツノが取れてしまうぞ」
お客の動物たちはシカの言葉を聞いて、こちらに集まってきました。
ウサギは、むりやり笑って答えました。
「あはははは。このおじいさん、ごちそうを食べ過ぎて頭がおかしくなったんですよ。このツノは、生まれたときからわたしのツノですよ」
年寄りのシカはそれを聞いて、大聲で言いました。
「あんまりフラフラしていると、はりつけたツノが取れてしまうぞ!」
それを聞いて、ゾウとお客の動物たちはウサギのツノをジロジロながめました。
(これはまずい、どうしよう?)
ウサギは怖くなって、ガタガタとふるえ出しました。
するとそのはずみで、頭にはりつけたツノがポロリと地面に落ちてしまいました。
「わあー! ごめんなさーい!」
ウサギはあわてて、逃げていきました。
おしまい